雑学のススメ No.11(04・6/7)

日本一周早周りの記録
〜ある研究会の挑戦〜
 NHKBS放送15周年を記念して「列島縦断 鉄道12,000kmの旅」〜最長片道切符で行く42日間〜 が放映されました。5月6日北海道の「稚内」を出発して、6月23日に終着駅九州の「肥前山口」に無事到着。同じ駅を2度と通らずに全国のJR鉄道網を「一筆書き」しながら、どれだけ長い距離に行けるかに挑む旅です。
 毎日15分の放映でしたが、メジャーな観光地でなく一般の方にはあまり知られていない、名もないローカル線の駅とその付近の散策なのに、結構新しい発見があり面白く拝見させていただきました。旅人の関口知宏(俳優)さんは今風の癒し系若者で、絵日記や楽器の演奏や作曲で地元の人たちにふれあい、人との出会いを重ねる度に何かを感じ取り、「旅」が人を育てるということが実際に伝わってきました。
 「最長片道切符の旅」はマニアの間では究極の旅といわれていますが、個人で挑戦するには「時間」と「お金」と「体力」が揃わないとなかなか実行することはできません。今回の企画は今流行の「スローライフ」を象徴する優雅な旅を、公共の電波を通じてお茶の間へ届けられることになり、テレビ番組の将来に一石を投じた作品になったと思います。

 日本列島を42日間という超スローペースの鉄道の旅でしたが、これとは逆にわが国経済の高度成長と共に発達したJR(旧日本国有鉄道)の高速化に時を同じくして、最短時間に挑戦した記録があることをご存知ですか。

【 挑戦の条件 】
@ 使用交通機関 JR鉄道及びバス(臨時列車を含む)路線
第三セクター鉄道線でJRが乗り入れている路線
A 起点と終点 JR東京駅(東京駅を出発しで東京駅に戻る)
B 出発日 平成10年(西暦1998年)10月26日(月)
C チェックポイン 都道府県庁地名駅(福岡県は博多駅)の46ヶ所
但し、沖縄県を除く。 新横浜・新大阪・新神戸・新札幌・新青森・新前橋はチェックポイントとしない。
D チェックポイントでの証明 各駅長若しくはその代理人から通過証明を戴く。従って単なる通過だけでは認められず、必ず停車しなければならない。

 1948年、慶應義塾大学観光事業研究会が活動を開始しました。この研究会が過去3度その当時の最短時間に挑戦しています。
@ 昭和33年(西暦1958年)11月 1日スタート 記録 9日 9時間 50分
A 昭和36年(西暦1961年)11月18日スタート 記録 7日18時間 52分
B 昭和43年(西暦1968年)11月17日スタート 記録 6日 8時間 46分
 1998年10月、この研究会の50周年を記念して4度目の挑戦を行うことになりました。第1回から40年、最後の第3回から30年という年月が経っています。その間、民営化などJRは大きく変化しました。早回り(スピード)に直接影響する出来事では、
@ 新幹線網が整備(東海道・山陽・東北・上越・山形・秋田・長野)され
A 日本列島が鉄路(青函トンネル・瀬戸大橋)で結ばれたことです。

 実行開始日の10月26日から遡ること10ヶ月も前から準備を始めました。
 先ず初めに手がけたことは、今回挑戦する「記録」の目途を立てることでした。ボトルネックがある北海道・九州の所要時間を第1回と比べてみると、北海道では27時間05分から12時間38分、九州では34時間11分から15時間45分へ短縮、ほぼ半分の所要時間で実行可能であることが判明しました。9日9時間50分の1/2の「4日12時間〜20時間」を目標に実行計画を立案することになりました。
 2月3日に第1案(4日18時間5分)が完成しました。この基本案をベースに列車乗り継ぎ時間が長いところの解消に取り掛かります。時刻表との戦いが続きます。9月28日に第9案(4日12時間28分)が最短ではないかというところまで漕ぎ付けました。
 時刻表があればいつでもどこでも挑戦できるゲームなのですが、NHKの企画のようにこれを実際に実行するとなると大変です。実行ダイヤの作成はもとより膨大な準備が必要なのです。
 同じ東京駅でも京葉地下1番ホームと新幹線19番ホームは20分の乗り換え時間がかかります。乗り換えホームの状況を把握しておかなければなりません。今回の計画で最も心配されたのは、長崎駅の引継ぎです。博多発特急かもめ19号の長崎駅到着は14:59、特急かもめ26号は長崎駅を15:00に出発します。引継ぎ時間はたった1分です。実際に本部から下見に行かせたり、当日長崎駅の関係者ならびに両列車の専務車掌に対する協力依頼をお願いするなど人手と時間の準備が必要だったのです。

 さらに実行当日ダイヤ通りに列車が運行されるかどうか何の保証もありません。
 実際、実行を前に台風の余波で四国の列車の運行ができなくなり、阿波池田から高知までバスによる代行輸送になってしまいました。その影響によって最終計画に修正を加え1時間余分にかかる実行計画に変更せざるを得なくなりました。「4日13時間28分」です。(全乗車距離は7,590km)

 計画を実行するに当たり一番の心配は、何らかのアクシデント(踏切事故等)で予定の列車に乗り継ぎができなくなってしまうことです。
 1998年10月26日 9時7分東京駅をスタート。東海道本線で第1のチェックポイント「横浜」に向かいました。10チームによるリレー方式です。

 途中「鳥取」で列車の扉が閉まって乗り遅れそうになったり、奥羽本線の送電事故で「青森」への到着時間が30分遅れることがありましたが、10月30日22時35分計画通り東京駅に到着。 新記録誕生の瞬間でした。
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【 参 考 】  実行計画経路
10月26日 東京→横浜→(東京)→千葉→(東京)→静岡→名古屋→岐阜→(名古屋)→津→(亀山)→奈良→(天王寺)→和歌山→大阪→神戸→(尼崎)→
10月27日 鳥取→松江→山口→博多→佐賀→長崎→(鳥栖)→熊本→鹿児島→宮崎→
10月28日 大分→(小倉)→広島→岡山→高松→徳島→(阿波池田)→高知→(佐川)→松山→(岡山)→(新大阪)→京都→
10月29日 大津→福井→金沢→富山→(直江津)→長野→(松本)→甲府→(新宿)→(大宮)→(高崎)→前橋→(高崎)→新潟→秋田→青森→
10月30日 札幌→(函館)→盛岡→仙台→山形→福島→宇都宮→(大宮)→浦和→(上野)→水戸→(上野)→東京