雑学のススメ No.32(08.2/08.3) 

一文字で多くを語る「漢字」
〜好ましい漢字・避けたい漢字〜
 年末になるとその年の世相を漢字1文字で表す行事が恒例になっています。京都市東山区の清水寺(きよみずでら)にある清水(きよみず)の舞台で、大きな紙に大きな筆で大きな漢字1文字を鮮やかに描く行事です。
 2007年は12月12日午後2時すぎ、詰め掛けた参拝客らを前に、森清範貫主が縦1・5メートル、横1・3メートルの特大の和紙に「偽」という漢字1文字を黒々と揮毫(きごうー知名人が頼まれて毛筆で文字や絵を書くこと)されました。ミートホープや「白い恋人」の石屋製菓、さらに不二家、赤福、船場吉兆など大手や老舗で相次いだ食品をめぐる偽装を反映した結果でした。
 この行事は何年も前から続いているように思われますが、意外に新しく、余りにも衝撃的な事件があった1995年に始まり、今回で13回目になります。

第1回 1995年 「震」 阪神淡路大震災
第2回 1996年 「食」 O―157食中毒事件・狂牛病
第3回 1997年 「倒」 山一證券・北海道拓殖銀行など大型倒産
第4回 1998年 「毒」 カレー毒物混入事件
第5回 1999年 「末」 世紀末(20世紀→21世紀)
第6回 2000年 「金」 シドニーオリンピック金(田村亮子・高橋尚子ら)
第7回 2001年 「戦」 ニューヨーク同時多発テロ事件
第8回 2002年 「帰」 北朝鮮拉致家族5人の帰国
第9回 2003年 「虎」 阪神タイガースセリーグ優勝
第10回 2004年 「災」 新潟中越地震  記録的な豪雨による水害
第11回 2005年 「愛」 愛・地球博の開催  愛ちゃん大活躍
第12回 2006年 「命」 悠仁親王ご誕生

 第1回から第13回まで選ばれた漢字を見ると、あまり好ましい字が選ばれているとはいえません。毎年毎年予想も付かない色々な事件が起こりますので、暗い殺伐とした漢字が多いものと思われます。それにしても「震」や「災」のように自然災害は止むを得ないとしても、「毒」や「偽」のように人災や心身を惑わせるような字が、その年の最も相応しい漢字になって欲しくないものです。
 2008年は国際宇宙ステーションにわが国初の有人宇宙施設「きぼう」の完成に向けて第1ステプの保管室が取り付けられましたので、先の見えない混沌とした世の中に光を与えるような、「希」・「望」・「夢」といった明るい漢字が選ばれることを願いたいものです。
 このように漢字は1文字でも色んなことを語りかけてくれます。漢字には何の罪もないのですが、お目出度い字(寿・祝・祥)好ましい字(貴・福・幸)から避けたい字(殺・害・罰)まで使われ方によって様々に分類されます。
 立場によって或いは時期によって好ましい字になったり、嫌いになったりする字があります。「協」という漢字です。
 町内会や参加団体から「ご協力をお願い致します」と言われると、ろくな事がありません。寄付をお願いされたり、サービスで労力や品物を提供したり、無償で取られるという印象が強いのです。また外注工場を「協力工場」、外注メーカーの集まりを「××協力会」というのも、親会社の利益を確保するために我が身を削って利益を取り上げられるという印象を拭い去ることは出来ません。

 「協」の意味は「力を合わせる」とあります。形を見ると「力」を3つ「+」(プラス)している様に見えます。まさに「力を合わせる」ことになります。また毛利元就の故事にある「3本の矢」を表している様にも見えます。いいえ、「協」の左の「十」は「+」(プラス)ではありません。「協」の文字を漢和辞典で引くときの部首は「十の部」です。「十」は「衆」を表していますが、「一」は東西、「|」は南北で「針」(シン)も表しています。つまり「協」はただ単に皆が力を合わせるというだけでなく、方針に従って力を合わせるという漢字なのです。

 IBMではプロジェクト発足にあたって、プロジェクトを成功させるキーワードとして「Same Boat Same Vector」を徹底しています。「力」を合わせるにしても一人一人がバラバラな意思で勝手な方向に漕いでもボートは目的地(達成目標)に届かない。同じボートに乗った全員が一定の方向(方針)に漕ぐことが大切、と説いています。
 プロジェクトの活動が開始され全員が一生懸命頑張っているのに、中々成果が見えてこないことが良くあります。そんな時「協」の字を見て初心に返るのです。プロジェクトリーダーは多くを説明する必要はありません。「協」の1字を掲げ、毎日眺めているだけでよい結果が生まれそうな気が致します。

 「協」という漢字は、英語の「Same Boat Same Vector」を「1文字」で表しています。すばらしい表現方法だと思います。映像文化が発達し、絵文字や略語が氾濫し、漢字離れが続いていますが、漢字は日本の文化です。大事にそして上手に使いたいものです。